ボトルシップ 日本丸
東京都荒川区 みなと 様
出産まで1か月を切るか切らないかぐらいの晩秋の時期、私が帰宅すると妻がボトルシップのキットを購入していました。妊娠で体が徐々に動かなくなっていく中、机上でできる趣味としてボトルシップを思いついたのだそう。
当初は軽い暇つぶしに…ぐらいに考えていたそうなのですが、説明書を読んで全体像を理解するにつれそのあまりの緻密さに驚いていました。
それからというもの、彼女から制作の進行状況を聞くのが毎日の楽しみになりました。元々手先が器用で凝り性だった彼女だったのですが、その彼女でさえ苦労する船底の削り出しや色塗りなど私には到底できそうにない作業。
妊娠も後期に入り日ごとに大きくなっていくお腹、胎動があって眠りに眠れない辛い日々、慢性的なけだるさと倦怠感、私としてもどうしようもなかったのですが、制作苦労を楽し気に語る彼女を見るとボトルシップの制作と第一子の出産がオーバーラップし、辛い妊娠の日々の希望を共有できたような気がしました。
色塗りが概ね終わろうかという時期、陣痛が来ました。まだ辺りは真っ暗の未明でした。彼女を病院に送り届け、一旦帰宅を促された私は荷物を取りに彼女の部屋に入ったのですがそこには作りかけのボトルシップと作業台。まだ日も登り切っていない薄暗い初冬の明け方、これまでの人生で経験したことがない痛みと向き合うことになる彼女に対して何もしてあげられることがない私。横たえられている作りかけの船がとても不安気で、自分でも理由が分からず涙があふれてきました。
同日午後、無事に出産を終え5日間の入院を経て彼女が第一子を連れて戻ってきました。もともと大のお酒好きだった彼女が徹底的な10か月の禁酒明けに用意していたのはボトルシップ用のウォッカ。
それを最初に二人で開けて飲んだ時の感動は忘れられません。未経験で手探りな子育ての合間にも徐々に制作は進められ、年も明けてしまったもののようやく完成に至った感動はもちろんそれ以上でした。まだ言葉も話せない子供ですが、いずれ成長して居間に飾ってあるボトルシップを見て「あれ?この船ってどうやってここに入ったの?」と疑問を持つ日が来れば、自らの誕生の裏にあったこの制作秘話を教えてあげようと思っています。
お子様のご誕生、おめでとうございます!
奥様のお腹の中で成長されていく赤ちゃんと、徐々に完成していく小さな日本丸が重なり、実話なのに一つの物語を読むように、ご投稿を読ませていただきました。お子様が大きくなり、このボトルシップを不思議そうに覗き込むお顔が目に浮かびます。20歳になったらこんどは親子一緒にウォッカを空けて、記念のボトルシップを作るのはいかがでしょうか⁉お子様の健やかなご成長を心よりお祈り申し上げます。